第6章 自分の市場価値を知る:努力しても市場価値が上がらない理由

会社での仕事にも慣れてきて、それなりに活躍できている。自分は結構、転職市場でも価値が高いのでは?

実際に市場価値が高い人もいますし、残念ながら全くそうでもない人もたくさん存在します。現実問題として、能力はかなり低くとも、なぜか肩書だけは立派な人もいることでしょう。

一方で、本当に能力が高いにも関わらず転職市場としてはあまり価値が高くない人もいます。かなり理不尽ですがこれが現実なのです

本記事では、以下の2点を明らかにし、転職市場価値の高い人材を目指すことを目的とします。

・自分の市場価値を知る方法
・転職市場価値を上げるためにあまり役立たないこと

この記事では「市場価値の高い人」=「高い年収のオファーを受けられる人」という意味になります。

自分の市場価値(適正年収)を適切に知る方法

「自分は転職市場でどれぐらいの価値があるのだろうか?」と思ったことはありませんか?世の中には無料で転職市場価値を知る方法が主に2つあります。

1)市場価値診断ツールを使う

便利な市場価値診断ツールをご紹介します。最も手軽に診断可能なのは、会員登録が不要な「ミイダス」です。

診断ツールによる市場価値の判定は手軽です。しかし、結果は参考程度にしておくのが良いです。(かなり昔の記事ですが、DeNAの社長の南場智子さんが診断したら適正年収が700万円と出たそうです・・・)

診断ツールによる判定は、基本的に自分自身と属性の似た人の年収が表示される仕組みになっていますが、年齢を重ねるほどキャリアは複雑化するのでツールによる判定はかなり難しくなります。

2)転職エージェントと相談する
身も蓋もない話ですが、結局、転職希望者の市場価値を決めるのは採用意欲を示している企業です。

その意欲を間接的に最も理解しているのは転職エージェントとなります。従って、転職エージェントから得る情報が最も確実性が高いのです。

企業が転職者の年収を決める手順は以下の通りです。
①その企業の社内でのポジションや給与テーブルに基づいて決定する
②転職希望者の現在の給与を参考に、スキルや経験を考慮して決定する
③競合との給与水準と比較して決定する

基本的には①が最も影響力が強く、③は弱いです。

従って、転職者の市場価値は
・いかに給与テーブル水準の高い企業に気に入ってもらえるか
・給与テーブル水準が低くとも、いかに高いポジションを獲得するか

の2点で決まることになります。診断ツールは業界や各種企業全体を平準化してしまいますので、あまり参考にならないといった理由はここにあるのです。

自分自身の市場価値を高く評価してもらう方法

自分自身が獲得してきたスキルは高く評価してもらうに越したことはありません。では、具体的にどうすればよいのでしょうか?

恐らく、真剣に考えている人は「自分の力を磨いて、成果を出すこと。」と思うかもしれません。確かに正しいです。

しかし、能力よりももっと大きく自分の市場価値(=年収)に影響してくる要素があります。それは「環境」です。

これは肌感覚でわかると思いますが、同じ経理であっても「小さな田舎の会社の経理」と「大企業の経理」とでは年収差はかなり大きいでしょう。

いやいや、小さな田舎の経理と大企業とでは能力も違うでしょ?と思うかもしれませんが、大企業の経理の方が、小さな田舎の経理に転職すれば、ほぼ確実に給料が下がります

つまり、能力よりも環境が優先されるのです。

となると、市場価値を高く評価してもらうには
①年収の高い業界をめざす
②年収の高い企業をめざす

という身もふたもない結論に至ります。

ただ、これだけではなんの気づきもありません。他に穴場として考えられるのが、
③管理職と一般職の年収差が大きい企業をめざす

という方法です。また、あまり知られていないかもしれませんが、転職者に対して特別な給与テーブルを用意している会社もあるようです。

上場企業であれば平均年収が公開されていると思いますが、「あくまで平均」という点に注意してください。企業によっては年収幅がかなり広いケースがあります。

このような差を知るにも転職エージェントを活用する必要が出てくるのです。

年収が高い業界を知る

どこの会社に転んでも、それなりに高く自分を評価してもらう最善策は年収の高い業界を選ぶことです。これは、業界の構造上、儲かりやすく従業員にも還元する文化ができているということです。

年収が高い業界は当然、優秀な人材が集まりやすいのですが「終身雇用」という文化が、その状況を曇らせます。

おそらく色んな業界の方と接点のある人だと感じると思いますが、入社時点では優秀だったとしても、5年もすれば、恵まれすぎた環境でかなり劣化するケースは枚挙にいとまがありません

その結果、大した能力やスキルも無いのに、良い業界にいるというだけで高い年収をもらっている人が大量生産されてきます。しかも、それに気づかずに「自分たち(わが社の社員は)は優秀だから」と平気でいう人も実在するのです!

では、手っ取り早く業界年収の高い業界を知るにはどうすれば良いのでしょうか?

①ネットで検索する
②会社四季報 業界地図 を読む

です。2025年版の業界地図では以下の通り記載されています(もっと知りたい方は書籍の購入をお勧めします)。
1位 M&A助言・仲介 1,575万円
2位 総合商社 1,533万円
3位 コンサルティング 1,008万円
4位 海運 854万円
5位 リース 849万円
6位 証券 785万円
7位 メガバンク 784万円
8位 医薬品 778万円
9位 不動産 757万円
10位 半導体製造装置 750万円

こう見ると、特徴が出てきますね。ものを作る企業よりもソフト的なもので支援する企業のほうが圧倒的に年収は高そうだということです。

とはいえ、すでにこういう業界に携わっていない人は入りたくても入れない!というのが現実でしょう。

そうすると現実的な選択肢は
①業界内での平均年収の高い企業を目指す
②平均年収が低くとも管理職と一般職の年収差が大きい企業をめざす

といった方法が考えられます。

努力しても市場価値が上がらない典型的な理由とは

会社内だけではなく、外に出ても通用する人間になりたい!と考えている方は日々努力されている方だと思います。

その中で、資格取得に励んでいる方も多いでしょう。
例えば人気の高い資格としては、以下のようなものが挙げられます。

・FP
・簿記
・TOEIC
・宅建
・ITパスポート

おそらく本ブログの読者の方ですと、かなりハイレベルな
・弁理士
・中小企業診断士
・技術士
・ITストラテジスト

などを狙っているかもしれません。

しかし、安易な資格取得は「努力しても市場価値が上がらない典型的な例」と言えます。私も資格取得の学習経験はありますので、その大変さは十分に理解しています。

自分の大切な時間とお金を資格取得に費やすのですから、向上心が高いという点でかなり評価できるはずですが、残念ながら単なる勉強オタクと思われる可能性すらあります。

特に、中途採用のシーンで、
私は中小企業診断士の資格を持っています!ですから、御社のビジネスの発展に大きく貢献できます。

などと言おうものなら

「は?」と、逆に大きく評価を落としてしまいかねません。

これは、面接官が評価するポイントと自分が考える評価ポイントが大きくずれていることから生じる問題です。

では、面接官が評価するポイントは何でしょうか?

①即戦力として活躍できるだけのスキルを持っているかどうか
②人柄や考え方が社風や職種に合っているか
③コミュニケーション能力は十分か
④意欲や熱意は十分にあるか
⑤基礎的な思考力・対応力に問題ないか

これら5つを押さえておけば十分ですが、特に①~③がかなり重要です。
そして、最も重要なのは①となります。

考えてみれば当たり前ですが、「人柄やコミュニケーション能力が高くとも即戦力として活躍できるだけのスキル」がなければ、面接へのお声すらかかりません。

さらに①即戦力として活躍できるだけのスキルを持っているかどうか とは具体的にどういうことでしょうか?それは、

①職務経験・・・実際の実務経験
②職務知識・・・資格などの業務知識

の2点に大別されます。こう分解すると、資格も重宝されるじゃないか、と思われるかもしれませんが、面接官の評価のウェイトを考えると
①職務経験・・・80~90%
②業務知識・・・10~20%
(これは職種によります。知識重視のところもあります。)

あたりとなります。

つまり圧倒的に職務経験が必要となりますので、安易な資格取得は「努力しても市場価値が上がらない典型的な例」となってしまうのです。

納得いかない!と思われる方もいるでしょう。
その場合は、ご自分の部署で中途採用するケースをイメージしてみましょう。

①単なる人手不足で猫の手も借りたいケース
②事業を先導してくれるコア人材候補を採用したいケース

で採用すべき人材のイメージは大きく異なります。
本記事では②のケースを想定していますが、現在は①のニーズもかなり高まっています。従って、たとえ①の採用枠で入社したとしても②を目指していく、という方法もあります。

しかし、ケースであっても、結局は転職エージェントとの相談、および実際の面接でしっかり採用の意図を聞く。ということが非常に重要になります。

注意したいのは、①の採用の場合、すでにその部署のトップになる候補者が社内で決まってしまっている事が少なからずあるのです。となると、よほどのことがない限り、①枠で採用されたあなたはその部署で出世することが難しくなります。

市場価値を上げるためにはどうすればよいのか?

では実際のところ自分の市場価値を高めるにはどうすればよいのでしょうか?
最も重視される点は実務経験・実績である」という現実を踏まえれば、やるべきことは明らかでしょう。そう、「関連する経験・実績を作る」ことです。

でも、「今の仕事に不満だから転職を考えているのに、今の仕事の実績を上げる。って意味わからん。」というのが率直な感想だと思います。

しかし、解決方法はあるのです。それは

①業務の片手間で、自分がやりたいことにつながる業務を勝手にやる
②自分がやりたいことに少しでもつながっている仕事を全力でやる
③自分がやりたいことに少しでもつながっている部署と接点をもつ

です。
①、②のあてが全くない場合は③は重要です。少しでも、その部署の人と接点をもち、教えを請いましょう。そして勝手に少し手伝ってみましょう。

いやいや、そんなのハードル高いでしょ?と思われたかもしれません。確かにそうでしょう。実際、私も教えを請いにいってキレられたことがあります。

いや、別に、失礼なことをしたわけではありません。「少し、ここがわからないので教えてもらえませんか?」と言っただけです。なのにキレられました。

こういうケースはこちらではコントロールできないので、家に帰って落書き帳にでも、文句たらたら書き殴って、やぶって捨ててやりましょう(これは科学的にもかなり効果が高いことが証明されています。)!メンタルヘルスのための重要なスキル獲得です。

いずれにせよ、重要なのは

今の業務をうまく活用して、自分のやりたいことに対する実績を作る

ということです。

そして、後付けのようになってしまいますが、とても重要なことがあります。
それは、もし自分が入社したい会社像や業種があるのなら、

どういった経験が最も重視される傾向にあるのか?
いまやっていることは評価される対象となるか?

をしっかり転職エージェントに聞いておきましょう。
この質問に真摯にこたえられる担当者は信頼できます。

そうでない担当者は相談するだけ時間の無駄です。担当者のレベルもピンキリです。

しょぼい担当者と付き合っている暇はあなたにはないはずです。担当を変えてもらいましょう。

まとめ:正しい努力で自分の市場価値を高める

市場価値を高める目的での資格取得はお勧めできません。勉強していると、なんだか自分の価値が高まっているように思われ精神安定剤になるとは思いますが、経験・実績が「主」であって資格は「補足」という認識が必要です。

やるべきことは、現在の業務をうまく使いながら、やりたいことへの実績を無理矢理にでも作ることです。

自分のやりたいことが新卒の時からできている人はラッキーで恵まれているのは事実です。

そうでなかった人は、自分の不運を変えるためには、ラッキーな人よりも不利な環境からより多くの努力が求められることになります。この事実も認める必要があります。

確かに温室育ちで大した苦労もなくよい待遇で過ごせる人も存在するのは事実です。しかし、人生、こういった不遇から這い上がってきた人のほうが確実に生命力は高いです。

その生命力を生かして、実りある体験を楽しむほうが充実感は高のではないでしょうか。そして、不確定要素は多いもののリターンの上振れも大きいです。

以上、最後までお読みいただき、ありがとうございました。